大阪市大正区在宅医療介護連携推進事業・多職種事例検討会

令和4年7月25日
 

講師:NPO法人 認知症の人とみんなのサポートセンター代表 沖田 裕子
司会:大正区医師会理事 鈴木昇平
テーマ:認知症の方の生活の中での意思決定支援

1.挨拶
大正区長  古川 吉隆 区長
歯科医師会 中山 盛詔 会長
薬剤師会  鈴木 理恵 会長

2.講演
NPO法人 認知症の人とみんなのサポートセンター 代表 沖田 裕子 先生
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)は、将来の医療及びケアについて、本人を主体に、そのご家族や近しい人、医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援するプロセスのこと。
ACPは「人生会議」と呼ばれる。

リビングウィルは「生前の意思」という意味。
終末期医療を迎える人たちが元気なうちに延命措置などに対しての意思を記しておくもの。
「終末期医療における事前指示書」とも呼ばれる。
ただし、現在日本国内においてリビングウィルに法的効力はない。
認知症の方の本人の意思の尊重、意思決定能力への配慮、早期からの継続支援について本人が自ら意思決定できるために、意思決定支援チームによる話し合いが大切となる

 

3.グループワーク
テーマ「認知症の意思決定支援で困ったこと」

4.発表
会場参加者

Bグループ
本人が意思を決めることができないときに、家族の意見が優先になってしまうことがある
訪問の限られた時間内で、本人が拒否されることもあり、意思を尊重した関りが難しいと感じる。
日によって状態が変わるので、何を本人の意思として受け取るか。
家族など代弁してくれる人がいないときに、本人の意思の汲み取りが難しい。

Fグループ
身寄りのない方の入院時契約の際に困ったことがある。
あんしんサポートなどの利用をすすめたが、本人は人に大事なものは預けたくないという気持ちがあり、どうすればよいか困る。

Gグループ
本人と支援の方向性を決めてすすめていくが、周りの方の意見に流されてその都度意見が変わってしまい困ることがある。
訪問リハの介入が決定しても、当日になって本人が納得されず実施できないことがあった。

Cグループ
家族の方が認知症の場合、新しい情報を理解することが難しいという状況があった。
早い段階から意思決定することが重要である。
施設での本人の意思決定が難しいことがあり、ご家族の意見をきくことになる場合が多いが、
その時に本人が納得されていないこともある。そのため、事前にご家族と話し合う機会を
設けていただく必要がある。

zoom参加者
zoom③グループ
身寄りのない方が多くその方たちが相談する相手がいなかったり、金銭管理などの同意を得ることが難しい。
本人とご家族の意見が違うと対応に困る

zoom⑤グループ
意見が変わりやすいことも多く、家族の意見を優先して対応してしまうことがある。

zoom①グループ
独居で身寄りがない方の対応が難しい。どこまでどのような治療をすすめていくかということを聞かれ困った。
運転免許を返納したほうが良いという状況があり、その必要性について理解していただけないことがあった
歯科での治療の際選択肢が多くなるため、どのような方向で治療を選択していくか難しい。
薬剤師の在宅訪問の際は、状況が見えるが、外来に通院されている認知症が疑われる方の対応については難しい。

zoom②グループ
あんしんさぽーと導入の際に認知症の方の意向の確認や契約の際に困ったことがある。
治療のことについてどこまで理解されているか分からず、このまますすめても良いのかと困ることがあった
外来通院の際、主治医に自分の状態について正しく伝えることができず、正しい治療につながっていかない。
もっと本人に関わっている人たち全体で情報共有しながらすすめていけるような仕組みはできないか。
見守り推進員が援助する内容を伝えてもなかなか伝わらないということがあった。

・講評
何か気になることがあれば、家族を含めたみんなでその時に悩んだことを共有できることが重要。
代弁者がいないときに、本人の意思をくみ取ることが困難な場合があるという意見があったが、代弁者ではなく、本人の意見を汲み取るにはどうしたらよいかということを考える必要がある
身寄りがない方の入院について、契約については後見人がついていてもすべて同意できるわけではないので本人にとってより良い選択を病院側が考えていくしかない。
意見が変わってしまうことが多ければ、回数を重ねてその人との信頼関係をどう構築していくかが必要。
ちょっとした言葉で意見が変わることがあり、その言葉が本人が大切にしていることだったり、本人の価値観に影響してくるようなことかもしれない。
独居の方の内服の有無については、本人がどこまでできてどこまでができないかなど考えた上で確認できるような仕組みが必要。
ご家族が本人の意思を確認できている場合は良いが、そうでないこともあるので、早めにエンディングノートを記入していただく。
若年性認知症の方では、免許を返納したくないという方が多いので、そのような場合同じような立場で免許返納した方と話ができる機会を作ることで理解してもらえることもある。

5.講演②
・事例紹介
認知症であるという事実を家族が受け入れるための心理的ステップとして、
①とまどい・否定→②怒り→③割り切り→④認知症の人の世界を認めることができる→⑤受容
というステップをたどる。
はじめはいつもと違う行動にとまどい、受け入れられない状況から始まり、認知症の症状に振り回されることで
混乱や怒りの気持ちが出てくることがある。
そして、認知症の理解がすすみ、自らをよくやっていると認められるようになり、理解を深めることができる。
最終的に、介護の経験を自分の人生において意味のあるものとして位置づけていくことができるようになる。
ステップ①・②の時期が一番つらい。長く介護することでステップアップできるわけではない。
家族交流会に参加してもらったり情報提供をするなど認知症の方を理解してもらえるような取り組みがサポートのためには必要。

チームで支援していくために、本人のこれまでの生活や本人らしさなど本人のことに思いを寄せる必要がある。
本人の行動を認知症だからということでひとまとめにするのではなく、本人の性格や、こちらの対応についても考えなければいけない。
オレンジチームは認知症初期から関わることができるため、診断についてどのように受け止めていたのか、
どういう価値観を持っているかなどの情報に目を向け、本人の求めているものは何かということについてもチームにフィードバックしていく必要がある。
自分だけで悩みを抱え込まないようにしていく必要がある。

意思決定支援の原則として、①本人の意思の尊重②本人の意思決定能力への配慮③早期からの継続的支援 が必要。
本人から生活歴などを聞いておけばその人らしい選択を助けることもできる。
どういう決定がその方らしいかということをご家族にも考えてもらう時間が必要である。

エンディングノートは、財産やデジタル遺産、医療介護について、じぶんのことについて、葬儀や死後の希望など
記入できるので、終末期のことだけではなく、残りの人生を生きるために書くものである。

6.大正区医師会理事 鈴木昇平医師 まとめ
家族の受容のステップについて、長く介護すればステップアップできるわけではないということを聞き、
医療者として、ステップアップをサポートしていくことが重要と感じた。
病院で、アドバンスディレクティブについて1枚の用紙で自分の最後の決定を決めることに抵抗を感じたことがある。
何も意思決定できない状態になったときに家族やまわりの人がちゃんとじぶんの思いをくみ取ってくれるのかが問題となる。
エンディングノートを書いたり、家族と事前の話をしておくことで、ご家族が本人の意思決定を支えるうえで重要になってくる。

7.大正区医師会会長 樫原秀一医師 挨拶
沖田先生の話にはいつも「なるほど」というトピックスがあり、勉強になります。
コロナ禍ではありますが、感染予防をした上で、みなさんを顔を合わせながら今回のテーマに向き合えたことは有意義です。
このミーティングを準備いただいたスタッフ皆さんに感謝申し上げ、大正区医師会高齢者支援ネットワーク並びに、医介連携推進に努めてまいります。
今後ともみなさんご協力よろしくお願いいたします。

大正区在宅医療・介護連携相談支援室 川上 加寿沙